2008年4月14日月曜日

河合荘クライシス 第二話

 「……ってことでさ、騒いでるのおれ達だけみたい」
 「そうなんだ……玲司君、どうするの? ここがなくなっちゃったら」
 「どうするも何も……」

と真剣な話を遮るかのように、むしろタイミングよく玲司の腹の虫が鳴る。

 「はいはい……ご飯ね。適当でいい?」
 「ハンバーグ♪」
 「適当で、って言ったでしょ? はい、決まり」
 「ええーっ!?」

河合荘の危機は少し軽くなった……のかもしれない。





 「……ん……誰か……来たっけ、か……」

夜になってようやく起床、ナンバーワンホストこと竜崎直夜。
昼過ぎの訪問者のことなど夢の世界の出来事程度、はっきり言って覚えていない。

 「ふわぁ……腹減ったな……芹香ちゃんとこに行くか」

“お腹が空いたら芹香の所へ――”
河合荘に住むゴージャス面々の反射的な行動になっていた。



 「芹香ちゃーん、何か食うモンある?」

芹香の部屋のドアをノックしつつ言うが返事がない。しかし電気は付いている。
竜崎がドアのノブに手をかけると、不用心にも鍵がかかっていなかった。
……実は人の事は言えなかったりするのだが。

 「ふごー……」
 「すぅ……」
 「おーい、お二人サン~、……こりゃ食った後眠たくなって寝ちまったという構図だな。ったく……なんつー色気のない……俺ん時とえらい違いだ」

というのも玲司は床に座ったまま両手を広げ、ソファに頭をのせて寝ている。
一方芹香はベッドの上でうつぶせになって寝ていた。
手をつないで寝ていた竜崎の時と比べると、確かに色気などない。

 「ふわっ……ん、あ、あれっ……竜崎しゃん……?」
 「何が“竜崎しゃん”だ、ここ芹香ちゃんの部屋だろ。寝るなら自分の部屋で寝ろって!」
 「ううっ……いつの間に寝ちゃったんだろ……ふわぁ……眠ぃ……」

まだ起ききっていない玲司は大きなあくびをすると、少しだけ頭がはっきりしてきた。
そこで思い出したのが……

 「……あ、そ、そうだ! 竜崎さん、河合荘の危機!」
 「どした」
 「河合荘が取り壊されるんですよ!」
 「何だって!?」

……と驚く竜崎にほっとする玲司。
よかった……自分や芹香以外に、同じように危機として感じている人が他にもいた、のだが……

 「……ま、そりゃ仕方ないとして、だ……ってことはつまり、玲司も芹香ちゃんも引っ越すっつーことだろ? また一緒のアパートか? だったら俺も同じところにすっかなー」

などと危機を通り越して未来の話をする。

 「引っ越ししないよ! それで芹香ちゃんと話してたんだけどね、大家さんにかけあってみようかって」
 「潰さないようにってか? そりゃいいけど……でも大家さんにも都合あっての事じゃねーの?」
 「でも……」
 「それにな玲司。形あるものはいつかは壊れる。仕方ないって」
 「そんなの困るよぉ……」
 「けどな、一つだけ残るものがあるんだ」
 「……何?」
 「想い出さ」
 「だから想い出にしたくないんだってば! しかも形なんかないし! もー、何くさいこと言ってるの!?」

そう言われると頭をぽりぽりかいて、話を元に戻す。
元に、とは竜崎がそもそも芹香の部屋に来た理由の方だが。

 「……あ、そだ、俺腹減ってここに来たんだった。おーい、芹香ちゃーん」
 「すぅ……」

寝ていて起きる気配がない。

 「起こしちゃ悪ぃか。どーすっかな……玲司、お前作れ」
 「は?」
 「は、じゃない。お前が作れと言ってるんだ、ナンバーワンのこの俺様がな」
 「うっ……わ、分かったよ……じゃ、ここだと芹香ちゃん起きちゃうからおれの部屋で作る……」
 「よしきた。ちなみに何作ってくれるんだ?」

当然材料などない、あるのは空っぽ……に近い冷蔵庫。
材料の買い出しに行かなければならない。となれば、メニューは何でもいいわけだ。
……作れるものであれば。
玲司はしばらく考えて言った。

 「……ハンバーグ?」
 「マジかよ! お前作れるのか!?」
 「芹香ちゃんが作るの、見たことあるから……たぶん」
 「ほー、んじゃ頼むぜ~」

二人は芹香の部屋をあとにした。

……あれ? 河合荘の危機は?

<第三話へつづく>

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