「……ってことでさ、騒いでるのおれ達だけみたい」
「そうなんだ……玲司君、どうするの? ここがなくなっちゃったら」
「どうするも何も……」
と真剣な話を遮るかのように、むしろタイミングよく玲司の腹の虫が鳴る。
「はいはい……ご飯ね。適当でいい?」
「ハンバーグ♪」
「適当で、って言ったでしょ? はい、決まり」
「ええーっ!?」
河合荘の危機は少し軽くなった……のかもしれない。
「……ん……誰か……来たっけ、か……」
夜になってようやく起床、ナンバーワンホストこと竜崎直夜。
昼過ぎの訪問者のことなど夢の世界の出来事程度、はっきり言って覚えていない。
「ふわぁ……腹減ったな……芹香ちゃんとこに行くか」
“お腹が空いたら芹香の所へ――”
河合荘に住むゴージャス面々の反射的な行動になっていた。
「芹香ちゃーん、何か食うモンある?」
芹香の部屋のドアをノックしつつ言うが返事がない。しかし電気は付いている。
竜崎がドアのノブに手をかけると、不用心にも鍵がかかっていなかった。
……実は人の事は言えなかったりするのだが。
「ふごー……」
「すぅ……」
「おーい、お二人サン~、……こりゃ食った後眠たくなって寝ちまったという構図だな。ったく……なんつー色気のない……俺ん時とえらい違いだ」
というのも玲司は床に座ったまま両手を広げ、ソファに頭をのせて寝ている。
一方芹香はベッドの上でうつぶせになって寝ていた。
手をつないで寝ていた竜崎の時と比べると、確かに色気などない。
「ふわっ……ん、あ、あれっ……竜崎しゃん……?」
「何が“竜崎しゃん”だ、ここ芹香ちゃんの部屋だろ。寝るなら自分の部屋で寝ろって!」
「ううっ……いつの間に寝ちゃったんだろ……ふわぁ……眠ぃ……」
まだ起ききっていない玲司は大きなあくびをすると、少しだけ頭がはっきりしてきた。
そこで思い出したのが……
「……あ、そ、そうだ! 竜崎さん、河合荘の危機!」
「どした」
「河合荘が取り壊されるんですよ!」
「何だって!?」
……と驚く竜崎にほっとする玲司。
よかった……自分や芹香以外に、同じように危機として感じている人が他にもいた、のだが……
「……ま、そりゃ仕方ないとして、だ……ってことはつまり、玲司も芹香ちゃんも引っ越すっつーことだろ? また一緒のアパートか? だったら俺も同じところにすっかなー」
などと危機を通り越して未来の話をする。
「引っ越ししないよ! それで芹香ちゃんと話してたんだけどね、大家さんにかけあってみようかって」
「潰さないようにってか? そりゃいいけど……でも大家さんにも都合あっての事じゃねーの?」
「でも……」
「それにな玲司。形あるものはいつかは壊れる。仕方ないって」
「そんなの困るよぉ……」
「けどな、一つだけ残るものがあるんだ」
「……何?」
「想い出さ」
「だから想い出にしたくないんだってば! しかも形なんかないし! もー、何くさいこと言ってるの!?」
そう言われると頭をぽりぽりかいて、話を元に戻す。
元に、とは竜崎がそもそも芹香の部屋に来た理由の方だが。
「……あ、そだ、俺腹減ってここに来たんだった。おーい、芹香ちゃーん」
「すぅ……」
寝ていて起きる気配がない。
「起こしちゃ悪ぃか。どーすっかな……玲司、お前作れ」
「は?」
「は、じゃない。お前が作れと言ってるんだ、ナンバーワンのこの俺様がな」
「うっ……わ、分かったよ……じゃ、ここだと芹香ちゃん起きちゃうからおれの部屋で作る……」
「よしきた。ちなみに何作ってくれるんだ?」
当然材料などない、あるのは空っぽ……に近い冷蔵庫。
材料の買い出しに行かなければならない。となれば、メニューは何でもいいわけだ。
……作れるものであれば。
玲司はしばらく考えて言った。
「……ハンバーグ?」
「マジかよ! お前作れるのか!?」
「芹香ちゃんが作るの、見たことあるから……たぶん」
「ほー、んじゃ頼むぜ~」
二人は芹香の部屋をあとにした。
……あれ? 河合荘の危機は?
<第三話へつづく>
2008年4月14日月曜日
河合荘クライシス 第二話
by
takagi
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