2008年7月8日火曜日

河合荘クライシス 第五話

 「できたー! おれの分とついでに芹香ちゃんの分と! 全部でえーっと……7つ!」
 「……なんか形が歪じゃね?」
 「し、しかも若干黒いしな……」
 「食べられるの?」

とマコトが聞くと

 「……たぶん」

少し自信がない玲司。初めて作ったハンバーグだ、無理もない。

 「じゃ、いらない」
 「だーっ、もう、そんなこと言わないでさ、ね?」
 「せっかく玲司が作ったんだ、食べようじゃないの! ってことで……いただきます!」
 「そうだね、いただくとするよ玲司」

箸を持ち竜崎号令のもと、みんなして食べる事になった。
マコトもしぶしぶだが食べてみる。

 「あ、味は……?」
 「…………」

沈黙が続く中、マコトがぼそっと一言言った。

 「ハンバーグの味だね」
 「つまり……?」
 「まぁまぁなんじゃない?」

マコトの“まぁまぁ”は彼なりの褒め言葉である。

 「確かにハンバーグの味するし……うまいんじゃね?」
 「上出来だよ玲司」
 「ほんと!?」

皆から褒めてもらって上機嫌だった。

 「はぁ……よかった! よしっ、芹香ちゃんの部屋にセッティングして、びっくりさせてあげよっと!」
 「ま、俺としては玲司のハンバーグ食えたらそんでいーわけで。あとはがんばれよ」
 「え、帰っちゃうの?」

さっさと食べて立ち上がる竜崎に声をかける。すると他もさっさと食事を終えて立ち上がった。

 「俺も失礼する。暇じゃないんでな」
 「何だ、みんな帰っちゃうの? んじゃ香希んとこ遊びにいこっと」
 「何で涼が来るんだ! 帰ればいいだろ!?」
 「オレはヒマなの。なー、いいだろ?」
 「ったく……! 玲司、邪魔したな」

涼も香希も帰るようだ。マコトは黙ってそれに続く。

 「っつーことで、あとはがんばれ。芹香ちゃんびっくりさせてやんなって。じゃな」
 「あ、うん……」
 「大丈夫、これなら芹香ちゃんも喜ぶよ。がんばって、玲司」

天祢が玲司を肩を叩いて出て行く。
バタンとドアが閉められ、玲司と2つのハンバーグのみとなった。
そしてやっと自分で食べる時間が出来る。

 「……ほんとだ、ちゃんと出来てる。ハンバーグじゃん! おれってやれば出来るかも! ま、形は悪いけど」

これなら何とか芹香にも食べてもらえそうだ。





 「ん……あ、あれ、玲司君は? 何これ……えーっと、ハンバーグ定食?」

目覚めた芹香の前に並べられた玲司特製ハンバーグ定食(ただしハンバーグの形は非常に歪)だった。

 「おはよ、芹香ちゃん。おれが作ったの」
 「だから誰がつく……うそ」
 「ほんとだって! 食べて食べて!」
 「あ、うん……寝起きにはちょっと重い気がするけど……」
 「そ、そっか……確かにそうだね、うん……」

その落ち込む顔を見ては、食べずにはいられない。
せっかく普段料理をしない玲司が作ってくれたのだから。

 「た、食べるってば! そんな顔しないでよ……」

と言い、恐る恐るではあるがハンバーグを口に運ぶ芹香。

 「他のみんなにも食べてもらったんだけど意外と評判よかったんだー。……どう?」
 「……あ、うん。びっくり。ちゃんと出来てる。……おいしい」
 「むふっ!」
 「これなら私が作らなくても自分で……」
 「今回だけなの! それにさ、どーしておれがハンバーグを作ることになったか、いまいちわかんないし……」

確か最初は別の話題を話していたはずだが……

 「あ……そうだ、河合荘の危機! 取り壊しの話、どうなったの?」
 「あっ!」

予想通り忘れていたようである。





後日芹香が大家さんに話をし、取り壊しは延期してもらうことで話があっさりついた。

 「なんだぁ……最初からそうすればよかったんだよね」
 「私はそのつもりだったんだけど……寝て起きたらまさかハンバーグがあるとは思わなかったわよ?」
 「あはは、その……けどさ! 芹香ちゃんが料理が上手かよーくわかったよ。っていうか料理って大変だよね……」

ハンバーグ作りはかろうじて成功したものの、その大変さはよく分かった玲司だった。

 「……じゃあ、今晩は何にする?」
 「ハンバーグ……はこの前食べたから、今夜はカレーがいいのでござる」