「できたー! おれの分とついでに芹香ちゃんの分と! 全部でえーっと……7つ!」
「……なんか形が歪じゃね?」
「し、しかも若干黒いしな……」
「食べられるの?」
とマコトが聞くと
「……たぶん」
少し自信がない玲司。初めて作ったハンバーグだ、無理もない。
「じゃ、いらない」
「だーっ、もう、そんなこと言わないでさ、ね?」
「せっかく玲司が作ったんだ、食べようじゃないの! ってことで……いただきます!」
「そうだね、いただくとするよ玲司」
箸を持ち竜崎号令のもと、みんなして食べる事になった。
マコトもしぶしぶだが食べてみる。
「あ、味は……?」
「…………」
沈黙が続く中、マコトがぼそっと一言言った。
「ハンバーグの味だね」
「つまり……?」
「まぁまぁなんじゃない?」
マコトの“まぁまぁ”は彼なりの褒め言葉である。
「確かにハンバーグの味するし……うまいんじゃね?」
「上出来だよ玲司」
「ほんと!?」
皆から褒めてもらって上機嫌だった。
「はぁ……よかった! よしっ、芹香ちゃんの部屋にセッティングして、びっくりさせてあげよっと!」
「ま、俺としては玲司のハンバーグ食えたらそんでいーわけで。あとはがんばれよ」
「え、帰っちゃうの?」
さっさと食べて立ち上がる竜崎に声をかける。すると他もさっさと食事を終えて立ち上がった。
「俺も失礼する。暇じゃないんでな」
「何だ、みんな帰っちゃうの? んじゃ香希んとこ遊びにいこっと」
「何で涼が来るんだ! 帰ればいいだろ!?」
「オレはヒマなの。なー、いいだろ?」
「ったく……! 玲司、邪魔したな」
涼も香希も帰るようだ。マコトは黙ってそれに続く。
「っつーことで、あとはがんばれ。芹香ちゃんびっくりさせてやんなって。じゃな」
「あ、うん……」
「大丈夫、これなら芹香ちゃんも喜ぶよ。がんばって、玲司」
天祢が玲司を肩を叩いて出て行く。
バタンとドアが閉められ、玲司と2つのハンバーグのみとなった。
そしてやっと自分で食べる時間が出来る。
「……ほんとだ、ちゃんと出来てる。ハンバーグじゃん! おれってやれば出来るかも! ま、形は悪いけど」
これなら何とか芹香にも食べてもらえそうだ。
「ん……あ、あれ、玲司君は? 何これ……えーっと、ハンバーグ定食?」
目覚めた芹香の前に並べられた玲司特製ハンバーグ定食(ただしハンバーグの形は非常に歪)だった。
「おはよ、芹香ちゃん。おれが作ったの」
「だから誰がつく……うそ」
「ほんとだって! 食べて食べて!」
「あ、うん……寝起きにはちょっと重い気がするけど……」
「そ、そっか……確かにそうだね、うん……」
その落ち込む顔を見ては、食べずにはいられない。
せっかく普段料理をしない玲司が作ってくれたのだから。
「た、食べるってば! そんな顔しないでよ……」
と言い、恐る恐るではあるがハンバーグを口に運ぶ芹香。
「他のみんなにも食べてもらったんだけど意外と評判よかったんだー。……どう?」
「……あ、うん。びっくり。ちゃんと出来てる。……おいしい」
「むふっ!」
「これなら私が作らなくても自分で……」
「今回だけなの! それにさ、どーしておれがハンバーグを作ることになったか、いまいちわかんないし……」
確か最初は別の話題を話していたはずだが……
「あ……そうだ、河合荘の危機! 取り壊しの話、どうなったの?」
「あっ!」
予想通り忘れていたようである。
後日芹香が大家さんに話をし、取り壊しは延期してもらうことで話があっさりついた。
「なんだぁ……最初からそうすればよかったんだよね」
「私はそのつもりだったんだけど……寝て起きたらまさかハンバーグがあるとは思わなかったわよ?」
「あはは、その……けどさ! 芹香ちゃんが料理が上手かよーくわかったよ。っていうか料理って大変だよね……」
ハンバーグ作りはかろうじて成功したものの、その大変さはよく分かった玲司だった。
「……じゃあ、今晩は何にする?」
「ハンバーグ……はこの前食べたから、今夜はカレーがいいのでござる」
2008年7月8日火曜日
河合荘クライシス 第五話
2008年5月22日木曜日
河合荘クライシス 第四話
「よーし、んじゃ作るでござる! まずは……」
本を見ながらたどたどしい手つきでハンバーグを作ることになった。
「お、おい……大丈夫か? っつーか本見ながらかよ……」
「玲司、そこに牛乳入れないと……」
「ホントに作れるのかねぇ?」
「生は勘弁してもらいたい」
「僕、帰る」
「ちょ、ちょっと待ってよ、帰らないで!!」
玲司お手製ハンバーグの噂を聞きつけ、6畳一間の部屋にホストが6名集っていた。
元々竜崎だけだったはずが、スーパーで会った天祢、無理矢理呼んできた香希にマコト、
電話で呼び出された涼が、玲司ハンバーグの行く末を見守る。
「うっ……目、目が……!!」
「ぎゃはは、玲司泣いてやんの!」
タマネギを切っていた(決してみじん切りなどではない)玲司の視界がゆらぐ。
それを見ていた天祢はしびれを切らして立ち上がるが、その腕を竜崎が掴む。
「玲司の手料理を食うんだ、店長はじっとしてた方がいい」
「け、けど……あんなでかいタマネギを混ぜるなんて、私としては許せないんだが……」
「天祢さん、いいじゃないですか。あいつなりに一生懸命なんですから」
「バカみたい。言っておくけど僕はハンバーグしか食べないから。違う物が出来たら食べないからね」
きついマコトの一言が玲司をより一層緊張させた。
たどたどしい手つきでハンバーグを作っていく。
見た目“それ”は、“それらしい”ものに見える。
「おっ、あとは焼くだけか?」
「話しかけないでっ!!」
「生焼けだったら……殺しちゃうかも」
「ひっ……」
緊張にプラス脅しまでされ、玲司はそれでもハンバーグ作りをなんとか完了させる。
「ふーっ、あとはフタをして……と。最初は中火で……ねぇ、中火ってどのくらい?」
「中ぐらいの火ってことだろ?」
「んなモン適当でいいんじゃねーの?」
と無責任な発言の涼。
「じゃあ適当でいっか。えーっと、中央をくぼませて……これでいいのかな。よしっ、点火するでござるっ!!」
そして部屋中にいい匂いが立ちこめる。
だがそれはやがて異臭へと変わっていった……
「玲司、火が強すぎない?」
「焦げてるって!」
「え? あわわっ……!!」
真っ黒になる手前でなんとか助かったハンバーグ達。
中火で40秒どころか、強火で数分も焼けば、さすがに焦げる。
そして……やっと皿に盛りつけるときが来た。
2008年5月14日水曜日
はじめまして、播野です!
こちらのブログでは始めまして!
D3Pプロデューサーの播野です。
今後のラストエスコートシリーズの担当となりました、どうぞよろしくお願いします。
さてさて、先日高木Dよりご報告がありました、「SweetPrincess」増刊第三号掲載のSSですが、再度掲載される運びとなりました!
初夏らしい内容を予定しておりますので、どうぞご期待ください!
2008年5月10日土曜日
河合荘クライシス 第三話
「玲司じゃないか。一人かい?」
駅前スーパーで声をかけてきたのは天祢 一星。ゴージャスの問題児達を束ねる店長である。
「あ、天祢さん。んと……竜崎さんと一緒に買い物に来てるんだけど……」
と辺りを見回すが竜崎の姿が見あたらない。
「直夜と? これはまた珍しい組み合わせだねぇ。そのカゴの中身から察するに……さては芹香ちゃんに買い物を頼まれたかな?」
「実はこれから料理を、と……」
「誰が?」
「おれが……」
「ははは、玲司も冗談が上手くなったなぁ」
「うっ……」
少なくとも天祢は玲司が台所に立つ姿は想像できなかったようである。
そして自分が作るのだと言うと、目を丸くして言った。
「その材料からして……もしかして餃子? 玲司が?」
「違うよ、ハンバーグ!」
「ハンバーグにニラは入れないと思うけど……」
「ニラ? あ、あはは……ニラハンバーグでござる! あっ……そうだ、天祢さんも食べに来てよ!」
「い、いや、私は……」
「そう言わずに! ね?」
遠慮したいがそうはさせてくれなかったようだ。
断り切れない天祢は玲司のハンバーグメンバーに加わる。
「ありゃ、何でまた……」
二人の姿を見て竜崎が声を掛けてきた。両手にビールとつまみを大量に持って。
「やぁ、直夜。玲司がハンバーグを作るんだって?」
「作れるらしーから期待してるんだが……天祢さんもどーだい? 今日はマコトも香希も河合荘にいるみてーだから、あいつらも誘うつもりだし」
「今玲司にも誘われたところだよ。そうか、作ったことがあるなら期待してもよさそうだね?」
「作ったことがあるわけじゃ……と、とにかく! 期待するといいのでござる!」
「はいはい、楽しみにしておくよ」
この中で一番不安に思っているのは、ハンバーグを作る本人だけのようだ。
芹香が作っていたのを見ていたから自分にも作ることが出来る……と最初は思っていたのだが、その記憶もすでに曖昧になっているとは言えない。
そして精算を済ませると、三人はスーパーを出て河合荘に向かった。
<つづく>
2008年5月9日金曜日
2008年5月4日日曜日
書き下ろしショートストーリー
まだ少し先ですが、
2008年4月27日日曜日
スーパーショートな会話ストーリー・竜崎
竜崎 「とりあえずはこんなモンかな」
芹香 「あ、あと納豆! ……でしたね」
竜崎 「おっ、ちゃんと覚えてたな、それがなきゃ始まらないってな」
芹香 「えーっと納豆には……」
竜崎 「卵と一味唐辛子、あとネギでヨロシク! あ、からしは俺嫌いだから」
芹香 「結構細かいですね……わかりました、じゃあ卵取ってきますね」
竜崎 「おう」
(芹香卵コーナーへ)
天祢 「くすくす……まるで新婚さんじゃないか」
竜崎 「あ、店長か。 いやまぁ……たまには買い物付き合わねーと悪いかなーと。
買い物かい?」
天祢 「もちろん。スーパーは買い物する所だからね。
ところで今夜は何を作ってもらうんだい?」
竜崎 「納豆丼」
天祢 「シ、シンプルだね……」
竜崎 「だろ? たまにはいーもんだぜ。天祢さんもどーだい?」
天祢 「い、いや私は遠慮しておくよ。それじゃ彼女によろしく」
竜崎 「あいよ」
芹香 「卵ゲットしました! あれ、今の……天祢さん、ですよね?」
竜崎 「ああ、納豆丼だっつったら逃げられた」
芹香 「納豆丼って……それだけじゃないですよ?」
竜崎 「あれ、違ったか?」
芹香 「あたり前ですっ! それじゃレジ、行きますー」
竜崎 「へいへい」